マーケティング(ABM/MA)に興味ありな大学生(卒論提出済み)のサイト。本のメモ、メディア記事メモ、Twitterメモなど個人用。卒論のテーマは「マーケティングオートメーション」「Mauic」関係でした。 自分用メモですが、ネット上の誰かのためにもなったら幸いです。

・半導体大手のルネサスエレクトロニクス(以下、「ルネサス」)Eloqua(現Oracle Marketing Cloud)をグローバルに導入。
・リード(見込み顧客)を育て、営業部門に渡すためセルフサービス的なWebサイトを重要なタッチポイントに据えている。

Q.ルネサスのデジタルマーケティングでは、Webサイトをタッチポイントとしてどのようなリードナーチャリングに取り組んでいるのか?

<背景>
顧客が営業に会う前に製品について自ら学んで調べる動きが顕著になった。
<目的>
従来のWebサイトの主な役割は顧客のサポートだったが、それをさらに強化して24時間サポートができる環境を整備するとともに、営業に会う前に顧客がどんな下調べをしているかをマーケティングの視点で追いたいと考えた。
<対策>
 そのためリードナーチャリング活動を数年前から始めている。リードを集めて、顧客それぞれに必要なソリューションをマッチングし、必要とする時に関連する情報を提供する。特にナーチャリングでは国内では特約店を含めた営業部門との連携を重視している。


Q.マーケティングから営業に渡すリードはどういう基準で見ているか?

・スコアリングの精度をある程度まで高めないと、営業に渡しても訪問先の話を聞いただけで終わってしまう。日本は他国と比べると販売体制が強固なこともあり、インサイドセールスと連携しながら、営業が受け入れてくれるであろう状態でリードを渡すようにしている。

・スコアリングは、エンゲージメントとプロファイルの2軸で評価している。エンゲージメントとは関心度合いのことで、プロファイルは企業や役職などの属性情報のことだ
ある企業の比較的高い役職の人が、高い関心を持ったことが分かれば、すぐに営業に渡している。ナーチャリングでは、Webサイトだけではなくインサイドセールスによるアウトバウンドコールも活用している。

Q.インサイドセールスチームはどんな活動をしているのか?
インサイドセールスの役割は大きく分けて二つ
1.MQL(Marketing Qualified Lead)として渡せる情報を最新にすること。
2.営業との連携で、これがより重要である。
コンバージョンレートを測り、営業がどういうリードを受け取ってくれるかを常に議論しながらナーチャリングを進める。

 ・営業との連携は、プロジェクトの計画自体にも関わってくる。例えば、営業がこんなセグメントの新分野の顧客を探したいので、こんなリードが欲しいという要望を出してくると、マーケティングがセグメントを定義したり、メールを送る相手を変えたり、プロジェクトを企画する視点からフィードバックすることもある。

 ・マーケティングは営業の考え方を理解するものの、いきなり正解にたどり着くことは難しいし、営業が言うことが常に正しいとも限らない。PDCAサイクルを回して、徐々にプロジェクトを最適化するようにしていった。

 ・一時的に営業担当者に兼務の立場にインサイドセールスのチームに入ってもらったこともある。実際の営業の考え方をフィードバックしてもらうなどの取り組みをして、営業が望むリードを渡せるように役立てた。また、ABMの考え方は営業とマーケティングで同じターゲットを追うという意味で、効率的な活動という意味に加えて、共通の理解に立つという点でも重要だ。

Q.リードナーチャリングを始めて一番苦心したのはどんなことか?どのように改善したのか?

 ・まず営業に渡すリードの適正な数を見極めることだった。最初の頃、リードを渡した営業には、リードに書かれた顧客を訪問したらすぐに注文書をもらえるという誤解があった。

 ・かといってリード数を絞り、ほぼ確実に受注できる状態のリードだけを渡しても意味がない。適度に受注のポテンシャルがあるものを渡すために、試行錯誤を繰り返し、ちょうどいいバランスを見極める必要があると思う。

 ・次にコンテンツの内容。従来は製品の優れている点を強調していたが、ナーチャリングのためにはコンテンツの内容を変える必要があった。製品そのものではなく、顧客の課題から掘り下げるストーリーテリング型のコンテンツに変える必要があった。エンジニアは正確に機能、性能を表す表現は得意だが、顧客にどんな価値を提供できるかをうまく伝える表現は苦手な場合も多い。そこで、コンテンツ制作は社内の数人も担当するものの、外部のライターも活用するようにした。

Q.Webサイトを活用したマーケティングで、どのようなことをやっているか?実施したキャンペーンを例に聞かせてほしい。

最近の例では、女子美術大学と一緒に「Touch Solution」の開発キットを使った動画コンテンツをWeb上で公開したことがある。ルネサスとしては、ボード設計者やソフトウエア設計者が最も大事な顧客だが、一般消費者にも新しい気づきを与えることが狙いだった。この例は少し極端かもしれないが、従来のように商品の性能をアピールするやり方とは異なる。ルネサスにとって、工業デザイナーなど、これまで接点のなかった人たちとコミュニケーションができるようになった。そのデザイナーが興味を持ち、製品を作ってみようとなると、少しずつルネサスの営業のチャネルに近づいてくる。半導体のビジネスは成立までに時間を費やすことが多く、今まで話したことのない人と近づくまでに2年ぐらいかかることもある。長いナーチャリングプロセスだが、こんな取り組みも進めている。

Q.マーケティングのKPI(重要業績評価指標)はどんなものを使っているのか?

・マーケティングの最も重要なKPIは「営業案件」だと考えている。正確に言うと、営業が案件として認めてSFA(営業支援システム)に登録したリードを指す。
・営業案件にすると、マーケティング単独ではコントロールできない要素が影響するため、MQLにしている企業も多いことは承知している。しかしMQLで評価すると、営業がアプローチしないこともある。最終プロセスの結果で評価してもらうのが大事だと考え、SFAに登録されたかどうかで判断することにした。

<後編>
Q.ルネサスのデジタルマーケティングではどんなツールを使っているか?

 リードナーチャリング関連では、SFA(Salesforce Automation)はSalesforceでMA(Marketing Automation)はEloqua(現Oracle Marketing Cloud)を組み合せている。ルネサスはEloquaの国内第1号ユーザーだった。選定の決め手は、グローバルで展開できることと、2軸でのスコアリングができることだった。

導入の順番としてはEloquaの方が先でSalesforceが後だった。MAを導入した時点でSFAは古いシステムで、Eloquaとの連携ができなかった。

 これでは渡したリードがその後どうなったかが見えなくなる。一度営業に渡したリードが戻ってくることもある。インサイドセールスの負担が増大することもあり、現在の構成とした。

 そのほか、セミナーやイベントの来場者マネジメントではシャノンのサービスを、分析ではDomoやAdobe Analyticsを使っている。米国ではEloquaと併せて(アーリーファネルの部分でABMを実現するためのプラットフォームである)「Demandbase」「Linkedin Sales Navigator」なども使っている。国によって若干システム構成が変わることもあり得る。

Q.日本と海外のマーケティングのやり方で違いを感じる点や、難しい点はどんなことか?日本でデジタルマーケティングを始めた企業が海外でつまずきそうなところはどんな点か?

知名度やブランド認知度が市場ごとに全く違うこともある。日本だと顧客がサイトを見に来て下調べをしてくれるが、海外だと知名度が低い場合もあり、サイトへ誘導することに力を入れる。

 しかも日本には特約店を含めた営業が長年積み上げた組織やノウハウがあるが、海外ではディストリビューターやセールスレップに販売を委託している場合もある。委託先とはSLA(Service Level Agreement)が重要になってくる。

 こうなると営業との連携は日本ほど密なものにならないケースも多い。そのため、海外では提供するリードの質も数も日本とは違うものが求められる。

 さらにコンテンツの内容も日本とは違う。米国では(将来を見通したテーマを提示し、それに対するアプローチを示唆する)「ソートリーダーシップ型」のコンテンツが顧客に支持される土壌がある。

 国内でも徐々に顧客の課題から掘り下げるコンテンツに変えるようにしているが、まだ全部がそうはなっていないので、パートナーと相談して作っている。グローバルには違うところと同じところの両方があるので、見極めが必要になる。

Q.海外のデジタルマーケティングをどう統括しているか?

 日本以外では、米国、欧州、中国、台湾、韓国、シンガポール、インドの七つのセールス拠点で展開している。日本の本社が全拠点のインフラ、プロセスを統括するグローバルガバナンス体制だが、一部には例外もある。

 デジタルマーケティングに関するテクノロジーの発展が日本よりも進んでいる米国は、キャッチアップしなくてはいけない。Demandbaseのように、米国で先行的に導入するサービスもある。逆にアジアの拠点は日本がサポートする余地も大きい。

 コンテンツはリージョン独自での制作を許している。日本向けと海外向けでは、翻訳は必要だが同じ内容でいいものと、違う設計をしないといけないものの両方があるからだ。特に製品のマーケティングメッセージをその市場向けに変えたい場合に、異なる設計を取り入れている。

 様々な企業にキャンペーンを展開し、拠点ごとに成果が出てきたら、日本は日本、海外は海外でフォローする。KPI(重要業績評価指標)についても、最終目標であるビジネスにつなげることは共通なので、「営業案件」で評価することに変わりはない。

とはいえ、国によって営業の前に力を入れる領域が違うので、拠点ごとにナーチャリングのやり方を考えてもらうようにしている。

Q.グローバルで使うツールはすべて共通なのか?また、米国ではDemandbaseを先行利用しているということだったので、DemandbaseとEloquaを合わせた使い方について教えてほしい。

基本的にはツールは各国で共通のものを利用している。欧州連合(EU)の個人情報保護など、様々な理由でインスタンスを分けている地域もあるが、ツールとしては同じにしている。各国拠点と話をしやすいし、同じキャンペーンをやる場合にもプロセスを運用しやすいからだ。

 Demandbaseについては、日本とは差がある海外でのルネサスの認知度を高めるため、1年半ぐらい前から使い始めた。(これまで取り引きがない)未知の企業を一定数集め、それぞれに向けた広告やサイトへの誘導などのターゲティングを実施している。

 ターゲットとしているのは、アプローチしたいけどできていない「アーリーファネル」と呼ぶ層の企業で、IPアドレスを基に企業を特定している。ABMではターゲット企業をあらかじめ定義して戦略を練るもので、その範囲は広く、Demandbaseはあくまで一部分であるが、アーリーファネルの箇所には有効である。

 Eloquaで管理しているリードは既存顧客も含めてある程度の情報がある層だが、Demandbaseはもっと前の、登録もしていないし企業としても認知していない層なのでその数は多い。WebサイトをベースにDMP(Data Management Platform)を使った施策で顧客を引き込み、価値があるコンテンツだと思ってもえたら登録してもらうという、インバウンド型の仕組みにしている。

Q.ITproマーケティングとしては、IT部門とマーケティグ部門の連携にも興味がある。ルネサスで両部門が連携して展開している施策はあるか?

 マーケティングがやりたいサービスを考えて、IT部門にそのための戦略を考えてもらうようにしている。例えばIT部門とも協力して、「Webシミュレータ」と呼ぶ開発支援ツールを提供している。開発ツールを購入しなくてもルネサス製マイコンの試作開発や消費電流シミュレーションを短期に可能にするものだ。

 Webシミュレータは、今後もバージョンを上げて改善を続けていく予定としている。このほかIT部門にはマーケティングに関わるインフラをどうするかを考えてもらっている




参考
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atclact/active/15/0817...(前編)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atclact/active/15/0817...(後編)

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